【50代起業】役員報酬の決め方|役員賞与との損益分岐を3年試算した話

さおり

「正解の報酬額」を試算してもらえると思ったら違った。

50代で会社を辞めて一人法人を作った私が、初年度に税理士に役員報酬の決め方を聞いた時の話と、3年経って辿り着いた組み方を書きます。「賞与活用で手取りUP」が本当か、データでも確かめます。

まずは結論を先に:3パターンの手取り比較

役員報酬の組み方は大きく3つあります。先に数字でざっくり眺めてから、本文で「なぜそうなるか」を読むと頭に入りやすいです。

役員報酬パターン3つ・手取り比較グラフ(年収500〜1500万・単身世帯)
📊 タップで拡大できます/年収500〜1500万・4パターンの手取り比較(単身世帯・40歳以上・東京協会けんぽ・2026年版)

早見表(年収500〜1500万)

3パターンの手取り額を一覧で確認できます。500〜800万はAとBが同じ、800万超でA有利、Dだけ常に有利だが「極端設計」(後述)。

年収 A:毎月のみ
(月額のみ)
B:賞与年1回・9%
(さおりの場合)
D:極端設計
(月10万+賞与)
500万 月42万
手取り 389万
月38万+賞45万
手取り 388万
月10万+賞380万
手取り 405万
600万 月50万
手取り 460万
月46万+賞54万
手取り 458万
月10万+賞480万
手取り 484万
700万 月58万
手取り 527万
月53万+賞63万
手取り 528万
月10万+賞580万
手取り 556万
800万 月67万
手取り 591万
月61万+賞72万
手取り 588万
月10万+賞680万
手取り 629万
900万 月75万
手取り 659万
月68万+賞81万
手取り 654万
月10万+賞780万
手取り 700万
1000万 月83万
手取り 725万
月76万+賞90万
手取り 719万
月10万+賞880万
手取り 770万
1100万 月92万
手取り 789万
月83万+賞99万
手取り 784万
月10万+賞980万
手取り 837万
1200万 月100万
手取り 854万
月91万+賞108万
手取り 845万
月10万+賞1080万
手取り 904万
1300万 月108万
手取り 915万
月99万+賞117万
手取り 909万
月10万+賞1180万
手取り 962万
1400万 月117万
手取り 969万
月106万+賞126万
手取り 961万
月10万+賞1280万
手取り 1019万
1500万 月125万
手取り 1021万
月114万+賞135万
手取り 1015万
月10万+賞1380万
手取り 1076万
※ 簡易試算・単身世帯・40歳以上・東京協会けんぽ・基礎控除のみ前提

あなたの数字で試算してみる(インタラクティブ電卓)

下の電卓に、検討中の月額役員報酬・賞与の年間回数・賞与の年間合計を入力すると、手取りを試算できます。同じ年収を「毎月のみ」にした場合との比較も自動表示。

役員報酬の決め方を税理士に聞いた日

会社を作って初めての確定申告を控えた頃、税理士の先生に「役員報酬っていくらにしたらいいですか?」と聞きました。

「正解の数字を1個もらえる」と思って質問したのですが、返ってきたのは別の問いでした。

「決算で赤字にしたいか、黒字にしたいか、トントンにしたいか。それによって変わります」

そう聞かれて、私は「赤字/黒字/トントン」を最初に決めるのが大事だと知りました。たしかに、方針によって役員報酬の決まる数字は変わります。

まず方針を決める:私の場合は「トントン〜ギリギリ黒字」

方針を聞かれて、私は迷いなく「トントン〜ギリギリ黒字」を選びました。赤字を狙わない理由は2つ。

  • 契約先によっては決算書の提出を求められる
    私の取引先で2社知っている/赤字だと信用面で不利に働く可能性。実際に赤字決算で契約できなかった話は聞いたことないけれど
  • 一人法人で銀行借入はリスクが高い
    借入を前提にせず、会社に少しずつキャッシュを積む方針

税金最小化(赤字狙い)と長期の資金安定は逆方向の選択。私は後者を取りました。

税理士がくれた「式」

方針を伝えると、先生は1つの計算式を例として見せてくれました。

(売上 − 経費 − 目標利益) ÷ 1.15 = 役員報酬の支給枠

たとえば、売上85万円・経費20万円とすれば、(85万 − 20万) ÷ 1.15 = 約56万円が役員報酬の月額。
※ この数字は例示で、私の実際の数字ではありません。

なぜ ÷1.15 なのか

÷1.15 は、会社が役員報酬を支払うときに別途かかる「社会保険料の会社負担分」を逆算するためのものです。

会社負担分は、おおよそ役員報酬の15%。内訳は次のとおりです。

  • 健康保険料(会社負担)
  • 介護保険料(会社負担・40歳以上)
  • 厚生年金保険料(会社負担)
  • 子ども・子育て拠出金
  • 子ども・子育て支援金(2026年4月新設)

2026年4月から導入された「子ども・子育て支援金」は、独身者からも徴収される設計で「独身税」とも呼ばれて話題になりました。会社負担分は今後さらに増えていく可能性があります。

つまり、役員報酬を「利益見込みからそのまま」決めると会社の手元に残らない。÷1.15 は、そこの、ざっくり調整です。

自分の数字を組み立てる作業

式と前提が分かったあとは、「自分の数字」を当てはめる作業が待っていました。これは税理士もやってくれません。自分で経費項目を洗い出して、月額に直して計算するのは想像より時間のかかる仕事でした。

月次経費(12項目)を自分で精査

毎月発生する経費を、業務専用と兼用に分けて洗い出します。私が当てはめた12項目はこちら。

  • 住宅ローン利子の支払い(自宅を事務所に使い、住宅ローン控除が終わっている場合)
  • マンション管理費(按分)
  • 電気代(按分)
  • 携帯電話(業務専用)
  • 携帯電話(按分)
  • プロバイダ料金(按分)
  • 旅費交通費
  • バーチャルオフィスの転送料
  • 諸会費
  • 交際費・消耗品費
  • 税理士顧問料
  • インボイス(消費税2割特例)

「兼用」のものは、業務に使った割合(按分比率)を決める必要があります。これは税理士に確認しながら進めました。

年額経費を÷12して月額に直す

1年に1回しか出ていかないお金も、月額計算に組み込みます。

  • バーチャルオフィスの月額(年契約等)
  • 固定資産税(按分)
  • 決算費用(税理士への成功報酬)
  • 年末調整費用

これらを÷12して、月次経費に上乗せします。

「目標利益÷12」も経費的に扱って差し引く

ここがポイント。手順はこう。

  • 「税引前当期純利益として残したい額」を年額で決める
  • 12で割って月額に直す
  • 月額の経費に加算する

こうすると、会社にも「いざという時のお金」が毎月コツコツ積み上がる計算になります。

1年目→2年目→3年目の試行錯誤

役員報酬の決め方は、3年でだいぶ変わりました。実際の組み立てと、感じたことを書きます。4年目からはまた変わるかもしれません。試行錯誤です!

1年目:毎月役員報酬のみ

初年度はシンプルに「月額固定」で走りました。計算が楽だったし、何より初年度は売上の見通しがそもそも立たない。固定の月額で1年やってみて、決算でずれを確認するつもりでした。

2〜3年目:役員報酬+役員賞与パターンに切り替え

2年目から、役員報酬を少し下げて役員賞与(事前確定届出給与)を組み込む形に変えました。理由は「売上が下がった時の保険」です。

役員賞与には、事前に税務署へ届出した金額・日付で支給しないと損金算入できないというルールがあります。一方で、業績が悪化したら「不支給」を選ぶこともできる

支給時/不支給時の必要手続きをまとめると次のとおりです。

場面 必要書類 提出先 期限
不支給(社内決定) 辞退届+株主総会議事録 社内保管 支給日に決議
不支給(社保関連) 賞与不支給報告書 年金事務所 支給予定日から5日以内
支給(社保関連) 被保険者賞与支払届 年金事務所 支給日から5日以内

ポイントは2つ。

  • 税務署への新たな届出は不要(不支給の議事録・辞退届は社内保管でOK)
  • 社会保険関連は税理士の業務範囲外。社労士に依頼するか自分で年金事務所に紙を送る

初めて役員賞与を出す時の落とし穴

  • 通常は支払予定月に年金事務所から「賞与支払届」の用紙が郵送されてくる
  • ただし初年度は送られてこないことがある(私の場合がそうでした)
  • その場合は日本年金機構の様式ダウンロードページから取得→印刷→郵送(賞与関係の様式はこちら
  • 「届くはずの紙が届かない」と気づいたら、5日以内の期限を逃さないよう注意

手取り視点での発見:意外と「毎月のみ」が強い

3年目になって試算してみたら、興味深いことが分かりました。手取りで見ると「毎月のみ」のほうが多くなる場面があるのです。詳細は次の章で。

「賞与活用で手取りUP」は本当か?データで検証

YouTubeや書籍で「役員報酬は月額を抑えて、賞与で手取りを上げよう」という解説をよく見かけます。これ、本当に手取りが増えるのかを試算してみました。結論は意外でした。

500〜800万:AもBもほぼ同じ手取り

早見表を見ると分かるように、年収500〜800万の範囲では、毎月のみ・賞与年1回の2パターンとも手取りがほぼ同じです。この帯では「賞与で社保カット」のメリットが出ません。

800万を超えると「毎月のみ」が有利になり始める

年収が800万を超えると、徐々に「毎月のみ」の手取りが他より高くなります。最大差は1300万あたりで約17万円。賞与活用は逆に手取りが減る結果になりました。

標準報酬月額の等級制度を知っておくと役立つ

この差が出る背景には、標準報酬月額の等級制度があります。月額の役員報酬は「等級」というブロックに丸められて社会保険料が決まる仕組みで、月給がいくらでも標準月額に置き換わります。

一方、役員賞与には等級丸めの概念がない。賞与の額に直接保険料がかかります(1回ごとに上限はあります)。

だから上限以下の年収帯では、賞与に振り分けた金額ほど「丸める恩恵」を失うことになる。これが「賞与活用で手取りUP」が成立しないカラクリです。

パターンD:唯一手取りが増える「極端設計」

では本当に、どう組んでも手取りは増えないのか?答えは「極端な月給設定なら増える」です。

仕組み:社保には3つの上限がある

  • 月給:標準月額の階段(月10万→5等級・98千円で最低水準)
  • 賞与・厚生年金:1回150万まで(超過は社保かからない)
  • 賞与・健康保険:年間573万まで

月給10万 + 賞与680万(年収800万の例)にすると

同年収を毎月のみ(月67万円)と比べると:

  • 社保が 54万円減る(119万 → 65万)
  • 税金が 16万円増える(社保控除が減るので)
  • 差し引き +38万円の手取り増(591万 → 629万)

ただし「現実的じゃない」問題

月給10万で生活できる?

  • 月10万 = 月の生活費としては厳しい
  • 賞与680万を「年1回どさっと」もらう形
  • キャッシュフロー悪い・税金一括徴収でしんどい
  • 月のローン・家賃を払えない人もいる

税務リスク

  • 月給を不自然に低くすると、税務調査で指摘される可能性
  • 「役員報酬の決定に経済合理性があるか」が論点
  • 売上規模・業務量との整合性が問われる

つまり、パターンDは「数字上は最強」だが「実生活と税務上のリスクで採用しづらい」設計です。私自身は採用していません。生活と事業実態に合った組み方を選ぶのが現実的だと思います。

賞与の本当のメリットは「経営の柔軟性」

では、なぜ私が今も役員賞与を使っているか。手取り目当てではありません

  • 業績が下がった年に「賞与を不支給」を選択できる(柔軟性)
  • 毎月の役員報酬は定期同額でないと損金算入できない(途中で減らすとペナルティ大)
  • だから「変動への備え」を賞与に持たせる設計

手取り重視なら毎月のみ、業績変動への保険重視なら賞与併用。どちらが正解という話ではなく、自分の事業の見通しによって選ぶものだと、3年やって思います。

困ったら税理士に聞く(自分で組めない部分は専門家に)

ここまで書いてきましたが、役員報酬の決め方は自分一人で全部判断するのは正直しんどいです。

そのうえで、賞与の事前確定届出書の作成・年末調整・決算・申告など、面倒なところは全部税理士に任せています。私一人だと絶対に回らない領域でした。

税理士に出会うルートは3つ

税理士に出会うルートは、大きく3つあります。私は自分でネット検索で探しました。

  • 自分で探す(よくわからなかったので気が付いたら探していました)
  • 知り合いに紹介してもらう(紹介してもらうと、比較検討しにくい/断りにくい面はあります)
  • 税理士紹介サイトを使う(複数の税理士を比較できる)

※ メリット・デメリットの両面があります。コネがない方や比較したい方は紹介サイトが現実的です。料率や条件は時々変わるので、検討中の方は最新の公式情報を確認してください。

まとめ:相談は専門家へ、当てはめは自分で

役員報酬の決め方を3年やってみて、私が辿り着いた考え方はこれです。

  • 「正解の数字を1個ください」ではなく税理士は相談相手。
  • 経費の当てはめは、自分の事業実態を一番知っている自分でやる
  • 賞与併用は「経営柔軟性」のために使うこともできる
  • パターンDのような極端設計は数字上有利だが現実的ではない
  • 困ったら税理士に聞くのは恥ずかしいことではない

役員報酬の最適解は、一発では決まりません。私もまだ模索中です。3年経った今も毎期、決算時期に試算をやり直しています

この記事が、同じ立場の50代起業家の方の役に立てたら嬉しいです。

※ 本記事の試算はすべて簡易試算です。配偶者控除・扶養控除・各種所得控除・復興特別所得税・住民税均等割は計算に含まれません。実際の手取りとは数万円程度の誤差が生じます。本格試算と税務判断は、必ず税理士などの専門家にご相談ください。

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50代・一人法人代表
IT系中小企業を辞めた51歳が、いきなり一人法人を作りました。退職金なし、起業経験なし、コネなし。それでも会社、作れます。節税・法人口座・税理士・バーチャルオフィス——会社員時代には知らなかった話を、失敗談も数字も全部オープンに。
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